昔は、ガムは嗜好(しこう)品でした。けれども、近年ガムにはさまざまな効果があることがわかってきました。そして、最近では歯や口くう内ケアのためにガムをかむ人も多くなったのです。特に、キシリトール配合のガムは、虫歯や歯周病予防効果があると注目が集まっています。
そこで、ガムをかんでデンタルケア効果を上げるためにも、ガムについてのお役立ち情報を詳しく解説しましょう。
この記事を読むことで、デンタルケアに有効なガムの選び方やかみ方などがおわかりいただけるでしょう。ぜひお役立てください。
1.ガムについて
ガムによる効果やガムと歯の関係などを知る前に、まずはガムの基礎知識を学んでみましょう。
1-1.ガムとは
ガムは、「チューインガム(Chewing gum)」を略した名称です。「chew」(かむ)と「gum」(ゴム)を合わせたチューインガムは、読んで字のごとく「かむこと」で味や歯ごたえなどを楽しむ食品になります。かみ続けると次第に味がなくなるので、最後は飲み込まずに捨てるのが一般的な食べ方です。
1-1-1.ガムの成分
ガムは以下のような原料からできています。
- 植物性樹脂:東南アジアに野生するアカテツ科・キョウチクトウ科・クワ科・トウダイグサ科に属する樹木から採取する樹脂を使用。中でも「チクル」が有名
- 酢酸ビニル樹脂:無色透明・無味無臭で水に溶けない樹脂。心地よいかみ心地を持つ
- エステルガム:かみ心地をよくする
- ポリイソブチレン:ガムベースの弾力性を出す
- 軟化剤:ガムを柔らかくしてかみ心地をアップする
- 炭酸カルシウム:長時間かんだときの「ダレ」を防止
- 糖原料:砂糖・ブドウ糖・水あめ・マルチトール・キシリトールなど
- 香料:天然植物油が主体で、ミント系のペパーミントやスペアミントが主流。レモンやオレンジなどかんきつ系果物から抽出したものもある
1-1-2.ガムの歴史
ガムの歴史は古く、誕生は西暦300年ごろ、高度な文明を築いたメキシコの「マヤ文明」までさかのぼります。当時、住民はサポディラと呼ぶ巨木の樹液を採集して煮詰め固めたものをかむ習慣がありました。それが、現在でもガムの原料として使っているチクルです。
チクルをかむ習慣は、メキシコのインディオに引き継がれ、スペインがメキシコを征服後、スペイン系移民の間にも広まりました。さらに、1860年にはメキシコのサンタ・アナ将軍がチクルをかむと口の中をきれいにできることに気が付き、一口サイズに切って販売するようになったのです。
そして、将軍と親交のあった米国の科学者・発明家のトーマス・アダムスがチクルを米国に持ち帰り、改良を加えてチューインガムとして発売しました。その後、会社を設立したアダムスは、さらに甘味料を加えたチューインガムを販売、爆発的にヒットしたのです。
日本では1916年(大正5年)に初めて輸入、1928年(昭和3年)にはガム製造販売会社も誕生しました。ただし、本格的に日本人にガムが広まったのは第2次世界大戦後です。1950年から輸入規制のあった「天然チクル」が入手できるようになり、1954年に国産では初となる天然チクルを使用したガムが発売されるようになりました。
1-2.ガムの種類
現在ではさまざまな種類のガムが市場に出回っています。形状・味・甘味料の種類をご紹介しましょう。
1-2-1.形状の種類
- 板状(板ガム):平べったい、長方形の板状のガムで、日本で初めて登場した形。1枚ずつ銀紙で包まれている
- 粒状(粒ガム):小さな粒状のガム。ボトル入りタイプや1粒ずつ包装しているタイプがある。(糖衣ガムと呼ぶことも)
- 球状(ガムボール):ボール状になっているガム。
また、形状に関係なくかんで柔らかくした後、風船状にふくらますことができる「風船ガム」もあります。
1-2-2.味の種類
- ミント系:ペパーミント・スペアミント
- フルーツ系:レモン・オレンジ・グレープフルーツなどのかんきつ系。ストロベリー・ラズベリーなどのベリー系。アップル・メロン・チェリー・プラムなど
- スパイス系:シナモン・ジンジャー・リコリスなど
- 飲み物系:コーラ・コーヒー・紅茶・緑茶・ワインなど
1-2-3.甘味料の種類
- シュガータイプ:砂糖・ブドウ糖など
- ノンシュガータイプ:マルチトール・キシリトールなど
1-3.最近の傾向
ガムの売り上げは、2004年をピークに9年連続で売り上げが減少し、2013年には3分の2まで落ち込みました。それを受け、大手ガムメーカーでは大幅に製品の刷新を行い、さまざまな製品が登場したのです。
最近人気があるガムの傾向は、ガムをかむことにより口くう内ケアができる製品になります。
また、形状としては、昔流行した板ガムよりもデスクやテーブルの上に常備できるボトル入りの粒ガムが主流です。
2.ガムのさまざまな効果について
普段何気なくかんでいるガムですが、実は肉体的にも精神的にもさまざまな効果があります。どのような効果があるのでしょうか?
2-1.どんな効果があるか
2-1-1.消化促進
ガムをかむとたくさんのだ液が出ます。だ液は「酵素アミラーゼ」を含んでいるので、消化吸収を助け胃腸の調子を整えるのです。
2-1-2.美容効果
ガムをかむことで表情筋を鍛えることができます。そのため、顔のリフトアップ、小顔、しわ・たるみ予防などの効果が期待できるのです。また、だ液には成長ホルモンが含まれているのでアンチエイジング効果も期待できるといわれています。
2-1-3.ダイエット効果
ダイエットの基本の1つに「よくかんで食べる」があります。食べ物をかき込まずに、ゆっくりとかむことで脳の「満腹中枢」を刺激するために、早く満腹感を得られるのです。ダイエット中にガムをかむことによって、空腹感をまぎらわすことができます。
2-1-4.記憶力・集中力アップ効果
ガムをかむと、脳が活性化するために記憶力がアップします。かんでいる間はその効果が継続するので、暗記中はガムをかみ続けるといいといわれているのです。同時に集中力も高まります。
2-1-5.認知機能の回復
ガムをかむ動作は、あごの筋肉を使うので脳への血液循環を促進します。そして、神経細胞が活性化するため認知症の予防効果になるといわれているのです。また、ガムをかむと認知機能にかかわる「前頭前野」が活発に動くという研究結果も出ています。
2-1-6.ストレス解消
ガムをかむと、セロトニンという物質が脳内に増加します。セロトニンは、心身の安定や精神の安らぎなどに影響を与えるので別名「幸せホルモン」と呼ばれているのです。そのため、ガムをかむとストレスや緊張をやわらげ気持ちを安定できます。
2-1-7.虫歯・口臭予防
ガムをかむことでたくさんのだ液が出るので、歯こうが歯に付くのを予防し落としやすくします。また、歯の表面を保護し歯を溶かす酸を中和するのです。特に、キシリトール成分を含んでいるガムは、虫歯菌を抑制する効果があるといわれています。細菌の繁殖を抑えるので口臭も予防できるのです。
2-2.咀嚼(そしゃく)について
咀嚼(そしゃく)とは、食べ物をよく歯でかんで粉砕(ふんさい)することです。それにより、前項で挙げたようなさまざまな効果が得られます。
ところが、最近では、子どもや若い世代が柔らかい食べ物を好むようになり、咀嚼(そしゃく)回数が減っていることが問題となっているのです。口当たりのいい柔らかい食べ物ばかりを食べることによりあごの筋肉がおとろえ、さらに柔らかいものを好むという悪循環になっています。そこで、ガムをかむことで、咀嚼(そしゃく)効果を取り戻すことが大切だといわれているのです。
2-3.デメリットとは
メリットがたくさんあるガムですが、デメリットもあるので注意してください。
2-3-1.がく関節症
ガムを長時間続けて強い力でかみ、あごの筋肉を使い過ぎるとがく関節症になることもあります。ずっとかみ続けないようにしてください。
2-3-2.フェイスラインのゆがみ
ガムだけに限りませんが、ものをかむときに同じ側(がわ)だけを使うとフェイスラインがゆがみます。左右均等にかむ習慣を身に付けましょう。
2-3-3.頭痛
ストレスを強く感じている人は、連続してガムを強くかみ続ける傾向があります。そのために表情筋やあごの筋肉が疲れ頭痛を引き起こすこともあるのです。
3.ガムと歯の関係
ここでは、ガムと歯の関係を詳しくご説明しましょう。
3-1.ガムは歯にいいか
2の項でご紹介したように、ガムをかむ動作は歯や口くう内にいい影響を与えます。また、だ液そのものにも殺菌効果が含まれていますが、「虫歯に効果あり」と実証済みのキシリトール配合ガムならより相乗効果が得られるのです。歯の健康のためには、糖分の多いガムは選ばないようにしましょう。
3-2.キシリトールとは
キシリトールとは、糖アルコールの一種で5個の炭素を持つ甘味(かんみ)炭水化物のことです。もともと野菜や果物などに含まれているもので、人間の体内にも存在しています。ただし、ガムなどに使用しているキシリトールは、白かばなどの木の成分であるキシランヘミセルロースを分解して得たキシロースを加工して作るのです。
キシリトールは、ガムなどの食品添加物として使用するだけではなく、点滴などの輸液にも使われるほど安全性の高い成分になります。そして、虫歯や歯周病予防にも大きな効果があるのです。
3-3.虫歯予防、口臭予防、歯周病予防などの効果について
ガムは、製品によってさまざまな甘味料を使用しています。その中でもキシリトールは、虫歯の原因にならないだけではなく虫歯そのものの発生を防ぐ効果があるのです。虫歯や歯石の原因となる歯こうの量と付着を減少し、歯の再活性化を促進する働きがあります。さらに歯周病や口臭を予防する効果もあるのです。キシリトール以外にも「歯にいい」成分を使用しているガムもあります。
3-4.市販品、歯科専売品
歯や口くう内のケアができるガムにはさまざまな種類があり、市販しているものと歯科の専売品があります。
3-4-1.市販品
市販品で、「健康に一定の効果がある」と厚生労働省が認めているガムには「特定保健用食品」(トクホ)の表示がしてあります。トクホのガムは以下のようなものがあるのです。
- キシリトール+2(ロッテ):キシリトールの効果効能については、「3-2.キシリトールとは」「3-3.虫歯予防、口臭予防、歯周病予防などの効果について」をごらんください。
- リカルデント(アダムス):リカルデント(CPP-ACP)は、牛乳たんぱく質の1種であるカゼインで作っています。歯の脱灰化(歯の表面からミネラルが溶け出す状態)を抑制し、再石灰化を助ける働きがあるのです。歯の質が弱い人におすすめです。牛乳アレルギーの人は使用を控えてください。
- ポスカム(グリコ):じゃがいもから作ったオリゴ糖で、特許成分のPOs-Ca(リン酸化オリゴ糖カルシウム)を使用しています。歯の再石灰化を効率的に促進し、脱灰化を抑制する働きがあるのです。
3-4-2.歯科専売品
歯科専売品とは、歯医者でしか購入できないデンタルケア製品のことです。歯科専売品ガムとしては、ロッテのキシリトールガムがあります。市販品との違いは、キシリトールの含有量です。
「歯科専売品キシリトールガム」は、キシリトール100%配合で、歯の主成分であるリン酸カルシウムも配合しています。また、歯に付きにくいガムベースを使っているので仮歯や義歯の人も使えるのです。市販品よりも少し硬いのも特徴で、かむ力を鍛えることができます。
3-5.実際の効果とは
歯のケア用に開発したガムは、通常のガムよりもデンタルケア効果が期待できます。正しい容量・用法を守って継続的にかむことが大切になるのです。
3-6.注意点
どんなに歯にいい成分を配合しているガムでも、ガムだけですべての歯こうや歯間の汚れを取り去ることはできません。毎日の歯みがきをきちんと行い、ガムの効果をアップすることが大切になります。
4.ガムの正しい選び方・かみ方
虫歯や歯周病予防の効果のあるガムの選び方と、正しいかみ方のポイントを知っておきましょう。
4-1.ガムの選び方
「3-3-1.市販品」「3-3-2.歯科専売品」でご紹介したガムがおすすめです。キシリトール配合のガムは、トクホ製品のほかにもありますがキシリトールの含有量が少なくなります。購入するときには、必ず含有量が多いもの(50%以上)を選びましょう。確かな効果を得たいなら歯科専売品をおすすめします。
4-2.ガムの正しいかみ方
ガムの効果を上げるには正しいかみ方をすることも大切です。ポイントをご紹介しましょう。
4-2-1.かみ始めのだ液を口の中に残す
ガムをかみ始めたときに出る「最初のだ液」をできるだけ長時間残します。かみ始めのキシリトール成分がたくさん混じっただ液を、口くう内に長くためることで効果が上がるのです。最低でも15分はかみ続けるようにしてください。
4-2-2.歯みがきをする前にかむ
キシリトールは、歯にへばり付いている粘着力のある歯こうをサラサラにする効果があります。そのため、歯みがきをする前にかむと歯ブラシで落としやすくなるのです。
4-2-3.食後の30分以内にかむ
食後30分以内にガムをかみましょう。虫歯菌は、食べ物の中の糖をエサとして取り込み酸を排出して歯を溶かします。ところが、キシリトールをエサと間違えて取り込むと酸を出せなくなるのです。そこで、食後は早くかんだほうが効果があかります。
4-2-4.1日5〜10グラムをかむ
虫歯予防に必要なキシリトールの量は1日5〜10グラムといわれています。そのため、キシリトール含有量が多いガムのほうが効率的にケアできるのです。
4-3.子どもや高齢者について
小さなお子さんにキシリトールガムを与えると、幼いうちから甘いものが好きな子どもになってしまうことがあります。まずは、正しい歯みがき方法を覚えるほうが重要です。お子さんに与える場合には、歯医者に検診がてら相談をしに行くほうがいいでしょう。
また、高齢者はうっかりガムを飲み込むことも多く、ノドに詰まってしまう危険性もあります。咀嚼(そしゃく)が苦手になってきた高齢者は避けたほうがいいでしょう。
4-4.ガムの相談・購入について
歯科専売品ガムを購入するときには、口くう内や歯のチェックも兼ねて歯医者に相談してください。
歯医者は「歯が痛くなってから治療に行くもの」と思っている人もいますが、歯や口くう内を健康に保ち、虫歯や歯周病の予防や早期発見のために行く場所でもあるのです。
4-4-1.歯医者の選び方
歯医者はたくさんあるので、いざ行ってみようと思ってもどうやって選んでいいのか迷ってしまいます。そこで、以下のことを基準に選んでください。
- 治療だけではなく、患者さんの歯や口くう内の健康維持にも力を入れている
- 歯の寿命を長くするために、できるだけ抜かない・削らない・神経を取らない治療を行っている
- 治療をして終わりではなく、定期的に歯や口くう内の管理をしてくれる
- 予約制で1人の診療時間を十分に設けてる
- 患者とのコミュニケーションを大切にしている
- 治療方針・計画をていねいに話してくれる
4-5.注意点
「ガムをかんでいるから大丈夫」と、日々のケアをおこたってしまう人もいますが、ガムだけで虫歯や歯周病などのトラブルを治療することはできないのです。あくまでも毎日正しいブラッシング・歯間ブラシ・デンタルフロスなどによるケアをきちんと行ってから、ガムを取り入れましょう。
そして、デンタルケアにガムを取り入れる前に、まずは歯医者で自分の歯や口くう内の状態をチェックしてください。
5.ガムの効果について〜よくある質問〜
ガムと歯について、よくある質問をご紹介しましょう。参考にしてください。
Q.キシリトールを摂取し過ぎると、おなかの調子がゆるくなることもあると聞いたことがありますが。
A.キシリトールは、食物繊維と同じで消化・吸収がされにくいのです。そのために、大量摂取すると体質によってはおなかがゆるくなることもあります。ただし、一過性のものなので体に害はありません。
Q.歯にいいガムなら、寝る前にかんでも大丈夫でしょうか?
A.歯科専売品のキシリトール100%配合のガムであれば、就寝前にかんでも大丈夫です。歯みがき前にかんだほうが効果が上がります。
Q.市販のキシリトールガムは、どのようなことに注意して選べばいいでしょうか?
A.市販のガムは、以下のような製品を選んでください。
- キシリトールの配合が50%以上のもの
- シュガーレスで糖質0グラムのもの
- クエン酸など「酸」を含んでいないもの
Q.口臭が気になります。ガムで改善できるでしょうか?
A.口臭の原因はさまざまです。中でも多いのが、口くう内の細菌が原因で起こる口臭になります。細菌はガスを発生するため、細菌の数が多ければ多いほど口臭も強くなるのです。まずは、歯みがき・歯間ブラシ・デンタルフロスなどを用いて歯のケアをしっかりと行ってください。歯みがきをしないでガムをかむだけでは、根本的な改善にはなりません。
Q.キシリトールガムをかんでいれば、歯周病の予防は万全ですか?
A.キシリトールを多く配合しているガムをかむと、歯こうを取りやすくなるので歯周病予防につながります。もちろん、ブラッシングなどの歯のケアをきちんと毎日行うことも大切です。歯周病予防のためには歯科専売品ガムのほうがいいでしょう。また、歯周病の初期は自覚症状がないので、定期的に歯医者でチェックすることも必要です。
まとめ
虫歯や歯周病の予防にガムが効果を発揮することがおわかりいただけたかと思います。また、思わぬガムの効果効能などにも気付いていただけたでしょう。キシリトール含有ガムの効果を上げるには、毎日の歯みがきが大切です。
そして、虫歯や歯周病の進行は自分で気付くことができないので歯医者で定期的にチェックすることも重要になります。ガムの効果を最大限に取り入れるためにも、製品は正しく選び、かみ方にも気を付けてくださいね。